クマの追い払いを実験してみた

盆休みの夕方、4日間続けてツキノワグマの観察に出かけた。
場所は船形山の山麓、集団移転で住む人の居なくなった嘉太神地区。

4日間で、延べ9頭(6個体?)のツキノワグマを目視観察することが出来た。
ここは、ある生産施設の敷地内で廃棄物などがクマのエサとなり、人が帰った夕方から夜間・早朝にかけて多くのツキノワグマが集まってくる。

生産施設に影響があるかも知れないので、写真は加工し施設内の状況は分らないようにしています。


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鼻筋に目立つ斜めのキズがあるオス。この個体は約1ヶ月に渡り定点観察続けたトレイルカメラに記録されていない。と言うことは、カメラを設置したクマの道以外のルートでやってくると考えられる。これで、この周辺のツキノワグマの個体数は僕の推定で17頭目になった。

生産施設の社長はじめ従業員の人も僕が近くにトレイルカメラを設置しているのは知っているし、皆さんも多くのクマを目撃している。先の個体識別や行動時間帯のグラフ結果もお伝えしていて、電気柵の下草刈りの手伝いとかもしている。
一緒になって被害防止策を検討したり、クマ研究者から得た情報を提供したりもしている。自分の趣味と言うか興味でやっているツキノワグマ観察だけれど、施設の方にとっては重要な情報として位置づけてもらっている。

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13日18時30分ころ。
鼻キズ♂は、僕の車がやってきても逃げない。ドアを開けて写真を撮り始めても逃げない。すると、向こうの藪から別なクマ(おそらくカメラに写った腹シロ♀)が現れて鼻キズに近づいてくる。鼻キズも気にすることなくエサ探しに夢中になっている。2頭並んでエサを探し、共に排除しあう様子は全く見られない。鼻キズが立ち去ったあとも腹シロはその場に居残りエサを探す。後方の藪から小型の別個体が顔を見せるが、腹シロが居るのを認め藪に戻りその後僕が見てる間に姿を現わすことはなかった。しばらくして鼻キズが戻って来たが、腹シロは逃げない。腹シロは満足したのかゆっくり立ち去り、鼻キズだけが現場に居残った。

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発情による♂♀接近ではないので、ツキノワグマは縄張り意識が低くエサが充分にあれば他のクマを排除しないと言うことは知識として知ってはいたが、実際に目視確認することが出来た。

そして、もうひとつ垣間見えたのが序列。上記の3頭を観察している途中にクマの道のほうに帰って行くクマも見ている。つまり、同時に4頭のクマを観察した訳だけれど、同列の鼻キズと腹シロ、下位の小型。(帰って行った中型は採食を終え戻ったのか?ほかのクマが居たのであきらめて戻ったのか?は不明)
下位の小型は、上位のクマが姿を消すまで隠れて待っていたと推測する。エサが豊富にあり多くのクマが集まる場所では、序列が出来上がっていて、その序列を乱すことさえなければ排除行為は行われずクマ社会のコミュニティが成立していると言うことなのだろう。

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さて、表題の追い払い。
4日間で観察したクマとの距離は最接近で約6m、上の写真は約30m。
6m前を小走りするクマの写真なんて撮れるもんじゃあない!クマ撃退スプレーをホルダーから出しながら車に逃げ込むのが精一杯。写真撮れる度胸のある協力者求めます!

このように野生のツキノワグマを好きに弄れるのは、めったにある機会ではない。せっかくなので、クマはどの程度の脅威に反応し追い払うことが出来るのかを試してみた。

状況は、どの事例もクマとの距離約20m~25m。上の写真のすぐ後は川で、ジムニーのエンジン音よりも水流の音のほうが大きく聞こえる場所。風はほとんどなく15日は雨。
<事例1>
12日:施設敷地内にいた小型。車近づく→逃げない。車のドアを開ける音→反応しこちらの様子を伺う。車から降りる人間(僕)→走って逃げ出す。
その後30分ほどの間に戻って来ることはなかった。(観察終了)

<事例2>
市販のクマ鈴。
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普通のハイカーが持つのはこんな程度のものでしょう。僕も大したクマ鈴は持っていない。
車近づく→逃げない。車のドアを開けて降りる→逃げないというより気づいていない、若しくは無視。クマ鈴を思い切り鳴らす→逃げない(聞こえていないor無視?)(観察継続)

クマ鈴を鳴らしながらどこまで近づけば逃げ出すのか、試みてもらえる度胸のある協力者求めます!

<事例3>
ホイッスル
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ホイッスルを鳴らす→逃げない。更に鳴らす→反応し周辺の様子を伺う(あれー?なんか音が聞こえるがなんだろう?ってカンジ)更にしつこく鳴らす→ホイッスルを鳴らしている僕と目が合い立ち去る(慌てて逃げた感じではない)
その後、数分で戻って来た。(観察継続)

<事例4>
声①
コラ!→逃げない(逃げないというより気づいていない、若しくは無視)。声の限りにコラーーー!!!!反応し周辺の様子を伺う(あれー?なんか声が聞こえるがなんだろう?ってカンジ)。更にしつこくコラーーー!!!→叫んでいる僕と目が合い立ち去る(慌てて逃げた感じではない)
その後、数分で戻って来た。(観察継続)
声②
ホーイ!ホッホー!!→コラ!よりも遠かったが、一声で反応。立ち去る。
その後、20分以内に戻ることはなかった。(観察終了)

<事例5>
クラクション
短く鳴らす→逃げない(逃げないというより気づいていない、若しくは無視)。長く鳴らす→反応し周辺の様子を伺う(あれー?なんか音が聞こえるがなんだろう?ってカンジ)。更に長く鳴らし続ける→立ち去る(うるせーなー!って渋々動いた感じ)
その後、3分程度で戻って来る(観察継続)

<事例6>
爆竹
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爆竹を鳴らす(16連発)→慌てて逃げ出す。
その後、8分後にクマが現れるが、逃げたクマと同一個体かは不明。

<まとめ>
エサが豊富にあり生息密度が極めて高い環境、日中は作業する人がいてトラックなど車が出入りするのを知っているというクマのタイプ、エサを求めるなど徘徊しているクマではない・・・など、一般的なハイカーや山菜きのこ採り、渓流釣りにおけるクマとの遭遇・接近とは状況が違う前提。また、事例の母数そのものが少ないので確証を得たものではない事を前提としています。

①クマ鈴→意味なし。
②ホイッスル・クラクションなど大きな音→相当しつこく出さないと効果なし。
③大声→相当大きな声でしつこく出さないと効果なし。巻き狩りで勢子が使うホーイ!ホーイ!って、やはり効果ありそうですね。
④爆竹→効果あり。但しその効果の持続性は10分以内になくなる。

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この結果で持ってクマの追い払い方を結論づけることは当然出来ない。あくまでも特殊な環境の中での一例に過ぎないのですね。
クマ鈴については、ツキノワグマ研究所のレポートでも追い払い効果は乏しいとありますが、追い払うことは出来なくとも人の存在を知らせ、近寄らせないという効果はあるかもしれないと思う。クマ鈴が獲物としての人の存在を知らせクマを誘うと言う説もありますが、よほど特殊な環境で特殊な学習をしてしまったクマに限ると思います。
この施設周辺以外で、車で走行中に出会うクマや山で偶然出会ったクマは、車や人を認めたとたんに逃げる(立ち去る)ケースがほとんどな訳です。(もちろん逃げないクマもいる)

どうすれば近づかせない或いは追い払うと言う事は画一的に論じるのは無理な話で、10頭のクマが居れば10通りの対策、環境によっても対策は変わるのだということだと思っています。
人間だってそうでしょ?静かに立ち去って下さいとお願いして、すぐ立ち去ってくれる人も居れば、しつこく言ってやっと立ち去る人も居るし、なかには逆ギレして突っかてくる人だって居る。クマだって同じなんじゃあないでしょうかね?


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Commented by aoe86 at 2018-08-17 12:45 x
標題からして興味津々でしたが、実験お疲れ様でした。長身の千葉さんなら熊も逃げるのでは?、と思ったりしますが、熊との適度な距離感というのは、本当に難しいですね。一部に、ペットボトルを潰すベコベコ音は慣れてない熊に有効、との声がありますが、小生は実験したことなく、効果の程は❓、です。
Commented by くまぷー at 2018-08-17 15:19 x
こんにちは。

協力者というのは、どっちの側で役割を果たす人のことを言っているのかで、同じく記事を読んでいた他の方と見解が分かれ、ゲラゲラ笑いながらそのことについて話をしていました。私の見解ではこうです。

写真撮影の協力者:
協力者はカメラを構えて、熊を目前にファインダーを覗くかっこいい勇気あるカメラマン。
チバさんは後詰でなにかあったら熊スプレーを協力者もろともにぶっぱなす。カメラはだめになるが仕方ない。

鈴実験の協力者:
チバさんが生贄になって鈴を振りながら近づく係(笑)
協力者は後詰でスプレーを持って後方待機。

この見解で果たしてあっているのでしょうか、はたまた!?はたまた!?

山歩きのおつきあいは、技量の差や志向するところの違いもあって、なかなかできないところもありますが、こういうご協力ならできるかもしれません。冗談で協力者求むと書いているのでなければですが(笑)

予てより、森の写真の作品としての熊写真は憧れです。絞りやシャッタースピードいじってる暇もなければ、明るさや動体の被写体の関係でISO3200とか6400になって印刷には耐えられないかもしれませんが・・・。
Commented by mt1500funagata at 2018-08-17 17:59
> aoe86さん
出会い頭でさえなければ、適度な距離はクマの方が分かっているような気がしています。ペットボトルの効果は近ごろ取り沙汰されていますが、今回はその程度の音量が届くとは思われない環境でしたので、行っていません。空のペットボトルを持って歩く人も見かけるようになりましたが、効果の程は疑問ですね。本文中にもありますが、個体差があるので何とも言えないですよね。爆竹鳴らしても10分たたずに戻るクマもいれば、エンジン音が聞こえただけで姿を消すクマもいる訳で、ペットボトル鳴らして立ち去るクマもいれば、無視するクマもいるってことではないでしょうか?
Commented by mt1500funagata at 2018-08-17 18:22
> くまぷーさん
おっ!協力の申し出ですか!?
撮影の協力者は見解の通り○!数メートルに近づいて来るクマから逃げずにシャッターを切り続けられる度胸のある人です。
鈴実験のほうは逆です×。鈴持って近づく役目の人。ここではクマ同士の排除性が低いことは実証されているので、クマの被り物をしている人なんかは適任じゃあないかと、、、(笑)

冗談はさておき、協力者がいれば良いなあと思っているのは事実です。後々トレイルカメラの台数を増やしたいと思うのですが、動作チェック、記録メディアやバッテリーの交換時に台数が増えればそれだけ時間も掛かる訳で、その作業をこんなクマがウジャウジャ居る場所で一人でやるのは正直なところ相当怖いです。万が一のバックアップも無いですからね。
作品レベルのクマ写真は、条件が揃わないとむずかしいですよね。クマ写真家によれば、相当な研究と根気が必要なようです。
Commented by repertum at 2018-08-19 11:54 x
協力者 X
人柱 O
ですね。人柱より先に犬柱を試してみてはいかがでしょう?
というのは冗談ですが、犬の吠え声や鉄砲(模型でも)にどう反応するか、興味津々です。
それにしても興味深い実験結果です。勢子に追われた経験がある熊なんてそんなにいないと思いますが、動物も個体間で知識を伝授できるの?と思いました。
Commented by mt1500funagata at 2018-08-19 20:21
> repertumさん
他にも追払いの方法はあるでしょうが、普通の山歩きの中で対応出来るのは、こんなもんでしょうかね。他の実験も温め中です。ホーイ!の方がコラッ!よりも音の通りが良いような気がします。なので勢子が使うようになったのでは?と思います。
Commented by m tsunaco at 2018-08-19 21:28 x
これはまた凄い実験をされましたね(゚ω゚)!
結果もすごく興味深い!
ここのクマたちは多少のことでは逃げないだろうとは思っていましたが、まさかここまでとは。。。
千葉さんがおっしゃってるように、あくまでもここのクマはこうだよという結果なのでしょう。
でもこの結果は、クマの環境への順応力の高さと、怖いほどの知能の高さを証明していますね。
他の地域で同じ実験をすれば結果は必ず違ってくるでしょうし、自分のエリアに溢れている音や他者からの影響にはクマ達はすぐに慣れる、という事ですよね。
クマ対策にはそうした場所ごとの特性を考えた対応が有効なのだと、この実験結果からよく分かりました。
その場所のクマが嫌う(慣れていない)事と平気な(慣れている)事の調査と整理から始める事が重要なのでしょうね。
Commented by mt1500funagata at 2018-08-19 22:46
> m tsunacoさん
おっしゃる通り、この結果はあくまでもこの場所ここのクマと言うことですね。施設で働くS君もクラクションとか同じ反応って言ってましたから、クラクションは、うるさいと感じているだけで脅威ではないのでしょうね。今回の記事では、排除性、序列、追払い効果について述べていますが、もうひとつ、目の前にあるエサへの執着・固執性の強さもうかがい知ることが出来る訳ですね。他でも採食中のクマが一旦立ち去っても、また戻ってくるのは珍しくないですが、ここのクマは一層それが強いのでしょうね。
Commented by toshiji at 2018-08-23 10:20 x
まず最初に・・・もちろん度胸はないっす( ;∀;) いや~面白い実験をされましたね~。環境に順応したクマさんにはそれこそ火薬系のものでないと、撃退は難しいんですね。ちゃんと何か異変を感じると一旦引いて、様子を見て戻ってくるんですね。ちなみにクマさんは何を食べているんですか??
Commented by mt1500funagata at 2018-08-23 21:47
> toshijiさん
ビビリながら近づくのと威圧的な態度で近づく時のクマの反応を比較してみる際には是非ご協力下さいね(笑)
生息環境によって対策を変える必要があるということを教えてくれる実験でした。今回のクマも森に帰って徘徊している時と今回のように餌場にいる時では反応が違うのかも知れません。
何を食べているかを詳しく書くと、生産施設にも影響があるかもしれないので書いていません、施設から出る廃棄物等と言うことにしておいてください。
Commented by 鈴木 at 2018-08-27 21:22 x
初めまして、鈴木と申します。先日、嘉太神ダム上流部の川に釣りに行ったのですが、熊が多い場所だったのですね。熊が出そうだなぁ、と思い長居はしなかったのですが。やはりあの近辺での釣りは控えた方が無難でしょうか。
Commented by mt1500funagata at 2018-08-27 22:47
> 鈴木さん
初めてのコメントありがとうございます。
あの辺りに釣りに入る人、結構いますね。一連の記事をご覧いただいた通りクマの高密度生息域でありますから、僕の口から大丈夫ですよとは言い難いです。控えるべきかどうかの判断は僕が下せるものではありませんが、僕もイワナ釣りはしますが、特に「施設」の上下流付近は絶対に近づきたくありません。トレイルカメラを仕掛けたクマの道からいったん川に降りて、川側から施設に入り込むクマの動きはわかっていますし、川の対岸から渡ってくるクマもいます。早朝夕方、週に3回くらい行きますが裏の川には必ずクマがいます。先の土日も両日とも見ています。
Commented by 鈴木 at 2018-08-27 23:18 x
>チバ様
ご返答ありがとうございました。
私自身最近渓流釣りを始めたばかりで、遠くない範囲で色々と一人でめぐっていた最中でした。やはりそうですよね。嘉太神近辺での釣りは控えたいと思います。嘉太神に行った際、もう少し西側の升沢川、荒川に入ってみたのですが、初めてヤマメを釣る事ができ、非常に嬉しかったです。上流部の川は本当に綺麗ですね。貴重な情報ありがとうございました。今後もブログ拝見させて頂きます。
Commented by mt1500funagata at 2018-08-28 08:15
> 鈴木さん
渓流釣りを始めたばかりのころは、いろいろな所に竿を出してみたくなるものですよね。吉田川も施設から数百m上流だったら普通の渓流並み(ちょっと多いかな?)のクマ率のようにも思いますが、、、。まあ、どこの渓流でもクマとの遭遇はあり得る訳ですから、それなりの準備対策は必要でしょうね。
今後ともよろしくご訪問ください。
by mt1500funagata | 2018-08-17 10:31 | 野生動物との出会い | Trackback | Comments(14)